金融機関では、住宅ローン申込者の年収や返済期間などをもとに、「借入可能額」を算出しています。
この借入可能額を、申込者があらかじめ把握していれば、マイホームの予算を決めやすくなりますし、住宅ローンの審査に通りやすくなるでしょう。
では、借入可能額はどのようにして決まるのでしょうか。
また、借入可能額は年収の何倍くらいが理想なのでしょうか。
住宅ローンの借入可能額の計算方法や、年収ごとの目安などをまとめました。
家の価格は年収の5~7倍が理想
住宅ローンの借入可能額を決める要素の一つが、「年収」です。
年収の多い人ほど価格の高い家を購入できますし、逆に年収が少なければ相応の価格になってしまいます。
一般論として、「家の価格は年収の5~7倍くらいが理想」だと言われます。
年収500万円の方なら、2,500~3,500万円くらいで売買されている家が妥当という計算です。
実際に家を購入された方の調査結果も見てみましょう。
住宅金融支援機構がまとめた調査報告によると、フラット35を利用して注文住宅や建売住宅、マンションなどを購入した方の「平均世帯年収」と、住宅取得にかかった「平均所要資金」の結果が示されています。
このデータから見ると、5.7倍~6.4倍となっており、一般的に言われる年収の5~7倍と近い数値になっています。
平均世帯年収 | 平均所要資金 | 倍率 | |
注文住宅 | 602万円 | 3,572万円 | 5.9倍 |
建売住宅 | 563万円 | 3,605万円 | 6.4倍 |
マンション | 788万円 | 4,528万円 | 5.7倍 |
※注文住宅については予定建設費と土地取得費を合計した金額、新築住宅及び中古住宅の購入については購入価額
参考:住宅金融支援機構「2021年度 フラット35利用者調査」
住宅ローンの借入可能額を決める要素
金融機関では、住宅ローンの借入可能額を「年収の何倍」といった単純計算で決めているわけではありません。
借入可能額を決める要素には、年収のほか「返済期間」「金利(審査金利)」「返済負担率」などを含めて算出するのが通例です。
ここで、それぞれのポイントをまとめておきましょう。
返済期間
返済期間を長く設定すれば、借入可能額を増やせます。
ただし、完済時期が定年を超えると審査に影響を与えますから、できる限り定年前に完済できる年数にすることがポイントです。
金利(審査金利)
住宅ローンの借入可能額は、金利負担分も含めて計算されます。
金利の低い商品を選べば、金利負担額を抑えられますから、元金にあたる借入可能額を増やせるのです。
なお、借入可能額を計算する際に用いる金利は現在の市場金利ではなく、「審査金利」を用いるのが通例です。
審査金利とは、金融機関が今後の金利動向を予測して独自に設定した金利のこと。
審査金利は非公開ですが、市場金利よりも1~2%くらい高く設定しているところが多いと言われます。
返済負担率
返済負担率とは、年収に対する年間返済額の割合のことです。
返済負担率を高く設定するほど、借入可能額を増やせます。
これも、金融機関ごとに上限が設定されており、30~35%が上限というところが多いようです。
ただし、返済負担率を高く設定して借入可能額を増やすと、家計を圧迫するリスクが高まります。
返済負担率は25%以内にすると、ゆとりある返済プランを描けると言われます。
年収ごとの住宅ローン借入可能額の目安
これらの要素をもとに、住宅ローンの目安の借入可能額を、年収別にシミュレーションしてみましょう。
返済期間は35年、審査金利2%(全期間固定)、返済負担率25%、元利均等返済という条件で求めた結果が、以下の通りです。
年収 | 借入可能額 |
300万円 | 1,886万円 |
400万円 | 2,515万円 |
500万円 | 3,144万円 |
600万円 | 3,773万円 |
700万円 | 4,402万円 |
800万円 | 5,031万円 |
900万円 | 5,660万円 |
1,000万円 | 6,289万円 |
シミュレーションの結果からも、住宅ローンの借入可能額は年収の5~7倍くらいという結果になりました。
頭金はいくら用意すればよい?
住宅ローンを利用する場合でも、ある程度の頭金を用意するのが理想です。
最近は、フルローンとよばれる住宅購入資金の全額をローンでまかなえる商品もありますが、こうしたローンは金利が高く、トータルの返済額が増える点に注意が必要です。
返済額を少しでも抑えるには、頭金を用意した方が安心でしょう。
一般的に、頭金は「売買価格の2割くらいあれば良い」と言われます。
3,000万円の家なら、頭金を600万円用意し、残り2,400万円を住宅ローンで借り入れるという計算です。
頭金が多いほど住宅ローンの借入額を減らせますから、返済が始まってからの負担を軽くできます。
ただ、貯蓄のすべてを頭金にすると、何かあったときに対応できなくなります。
少なくとも一年分の生活費くらいの貯蓄は残し、頭金を決めるのが理想です。
自己資金で賄えないときは、両親に援助を求めるのも一手でしょう。
返済負担率の上限で求めた住宅ローンの借入可能額
「頭金を用意できないから、できる限り借入額を増やしたい」という方も、いらっしゃるかもしれません。
特に、年収の少ない方は借入可能額も少なくなり、物件の選択肢が狭まります。
少しでも多く借り入れて、理想のマイホームを手に入れたいでしょう。
住宅ローンの借入可能額を増やすには、「返済期間を延ばす」「低金利の住宅ローンを選ぶ」「返済負担率をアップする」という3つの方法があります。
ただ、返済期間は最長35年と決まっていますし、金利も将来どうなるかわかりません。
手軽に検討できるのが、「返済負担率をアップする」という方法です。
返済負担率は25%以内が理想とされますが、フラット35の場合、年収400万円未満は30%、400万円以上は35%まで設定できます。
そこで、上限いっぱいに設定したときの借入可能額をシミュレーションしてみます。
借り入れの前提条件は、返済期間35年、審査金利2%(全期間固定)、返済負担率25%、元利均等返済です。毎月の返済額もあわせて、ご覧ください。
年収 | 借入可能額 | |
300万円 | 2,264万円 | 7万4,997円 |
400万円 | 3,521万円 | 11万6,637円 |
500万円 | 4,402万円 | 14万5,821円 |
600万円 | 5,282万円 | 17万4,972円 |
700万円 | 6,163万円 | 20万4,157円 |
800万円 | 7,043万円 | 23万3,308円 |
900万円 | 7,924万円 | 26万2,492円 |
1,000万円 | 8,804万円 | 29万1,643円 |
参考:住宅保証機構
年収300万円の場合、返済負担率25%の借入可能額は1,886万円でしたから、30%にすることで約400万円も増やせます。
年収400万円でも、返済負担率を35%に設定すれば、25%と比べて約1,000万円も増やせるのです。
借りられる金額と返せる金額は違う
ここで注目してほしいのは、借入可能額よりも「毎月の返済額」の方です。
たとえば年収400万円の場合、毎月の返済額は11万円を超えます。
年収に税金や保険料を含んでいる方だと、手取りは320万円くらいになる方が多いでしょう。
さらに、ボーナス込みで400万円なら、毎月の手取り給与は23~25万円くらいではないでしょうか。
この給与の方が、約3,500万円の住宅ローンを借り入れると、給与の半分が住宅ローンの返済に消えていくことになります。
もちろん、これから収入が増える見込みであれば、滞りなく完済できるかもしれません。
しかし、収入が増えなければ、35年間もこの状況が続くことになります。
ちなみに、返済負担率25%(借入可能額は約2,500万円)の毎月の返済額は8万3,312円で、手元に14万円前後を残せます。
住宅ローンの借入可能額を試算する際は、毎月の返済額にも注目し、現実的に返済できるかを検討することが大切です。
限度額まで借り入れると滞納リスクが高まる
住宅ローンの返済期間は、30年以上も続きます。この期間に、人生には何があるかわかりません。
転職で収入が減ることも考えられますし、病気やケガで収入がなくなる時期もあるでしょう。
子どもの教育費が思いのほか増えるなど、支出の増額も想定されます。
こうした不測の事態に備えて、貯蓄も必要です。
借入可能額の限度額いっぱいまで借り入れると、貯蓄も作れず、家計を圧迫する可能性が高まります。
いずれは、住宅ローンの返済が滞るようになるでしょう。
返済が滞ると、最悪のケースでは、マイホームが差し押さえられて競売にかけられる事態も考えられます。
こうしたリスクを避ける意味でも、住宅ローンの借入可能額を検討する際には、ゆとりある返済プランを立てることが重要です。
まとめ
住宅ローンを検討するとき、「できるだけ多くの融資を受けたい」と考えている方は多いでしょう。
借入額が増えれば、物件の選択肢が広がり、理想のマイホームを手に入れやすくなります。
しかし、借りたお金は返さなければなりません。
借入額が増えるほど返済額も増え、将来の家計を圧迫するリスクも高まります。
住宅ローンの借入可能額を検討する際には、「毎月いくらまでなら返済できるか」という視点も大切です。
年収が同じ人でも家計の状況はそれぞれ異なります。毎月の返済できる額を求めた上で、その額から借入可能額をシミュレーションされることもおすすめします。