「賃貸に一生住み続けるより、持ち家の方が住居費は1,300万円も安くなる」という話を耳にしたことはありませんか?
誰が言ったのか出所は不明ですが、生涯の住居費で比べると賃貸の方が高くなりやすいのは事実です。
では、「賃貸に一生住むときの費用」と「マイホームを買って一生にかかる費用」とを比べると、どれくらいの差が生じるのでしょうか。
ここで、生涯の住居費をシミュレーションするとともに、持ち家・賃貸それぞれのメリットとデメリットについてお伝えします。
生涯の住居費は持ち家のほうが賃貸より1,300万円安くなる説
冒頭でお伝えした「1,300万円」という金額の根拠として、大きく2つの説があるようです。
一つは「老後に支払う家賃総額が1,300万円」という説、もう一つが「住宅ローンの返済額と家賃総額との差が1,300万円」という説です。
老後に支払う家賃総額が1,300万円説
住宅ローンを利用して持ち家を購入する人は、一般的に、定年までに完済するよう借入額や返済期間を調整します。
これは、定年後は安定した収入がなくなり、返済が滞る可能性が高くなるためです。
つまり、持ち家を購入した人は定年後にかかる住居費が、ほぼ「ない」といえます。
一方、賃貸に住み続ける場合は、定年後も家賃の支払いが続きます。
仮に、毎月の家賃が7万円として、65歳から80歳までの15年間賃貸に住み続けると、家賃総額は約1,300万円(7万円×180ヵ月=1,260万円)になります。
住宅ローンの返済額と家賃総額との差が1,300万円説
こちらも一般論ですが、同じ条件の家なら、賃貸の家賃よりも住宅ローンの毎月の返済額の方が「3万円くらい安い」といわれます。
仮に、住宅ローンの返済期間が35年間とした場合、家賃との差額が約1,300万円(3万円×420カ月=1,260万円)になります。
賃貸に一生住んだときの住居費はいくら?
1,300万円というのは、あくまでも仮説です。
では、実際のところどれくらいの差が生じるのでしょうか。
ここでは、横浜市で「50年間(30歳から80歳まで)賃貸に住み続けた場合の住居費」をシミュレーションしてみます。
なお、賃貸は家族構成やライフスタイルにあわせて、転居できることがメリットの一つです。
そこで、次のタイミングで引っ越すものとします。
・【30歳】子ども(2歳)が幼稚園に入園するタイミングで、2LDKの賃貸に引っ越す。
・【40歳】子ども(12歳)が中学校に入学するタイミングで、3LDKの賃貸に引っ越す。
・【55歳】子ども(27歳)が独立後に、2LDKの賃貸に引っ越す。
また、賃貸には家賃のほかにも毎月「管理費」がかかりますし、車を所有している人は「駐車場代」も必要です。
さらに、新居に引っ越す際には「礼金・敷金・仲介手数料」が必要ですし(それぞれ家賃の1カ月分と仮定)、家財にかける「保険料」や「引っ越し代」も準備しなければなりません。
住み始めてからも、2年に1度は「更新費(家賃の1カ月分と仮定)」がかかります。
退去時には「原状回復費」も必要でしょう。
これらの費用も含めて、賃貸に50年間住み続けたときの住居費は、以下の通りです。
家賃 | 約8,131万円 |
管理費 | 300万円 |
駐車場代 | 900万円 |
礼金・敷金・仲介手数料 | 約123万円 |
火災保険料(家財のみ) | 40万円 |
引っ越し代 | 40万円 |
更新費 | 約312万円 |
原状回復費 | 20万円 |
【合計】 | 約9,826万円 |
※家賃は、横浜市の賃貸マンションの平均額(2LDK:12.64万円、3LDK:15.68万円)が50年間変わらないものとして算出。
※管理費は5,000円/月、駐車場代は15,000円/月として算出。
参考:
アットホーム「神奈川県の地域の家賃相場から賃貸マンションを探す」
持ち家を購入して一生にかかる住居費はいくら?
賃貸に50年間住み続けたときの住居費は、約9,826万円という結果でした。
では、持ち家の場合はいくらになるのでしょうか。
ここでは、住宅ローンを利用して4LDKの戸建住宅を購入するケースでシミュレーションしてみます。
横浜市の4LDK戸建住宅の平均額は、約5,280万円です(アットホーム調べ)。
このうち、頭金として1,000万円を用意し、残り4,280万円を住宅ローンで借り入れるとします。
マイホームの購入時には、住宅本体価格のほかにも「諸費用(諸税・住宅ローンの手数料など)」が物件価格の5%程度、そして「保険料(火災保険・地震保険)」が必要です。
また、住み始めてからは固定資産税などの「税金」もかかります。
ただし、住宅ローンを利用される人は「住宅ローン控除」も、試算に加えたい要素です。
住宅ローン控除は、年末時点のローン残高の0.7%が控除され、これが新築の場合は引渡しから13年間続きます。
控除額は、納税額や扶養家族の有無などによっても異なりますから、ここでは13年間で300万円が控除されると仮定します。
50年間も住み続けると、いずれリフォームも必要になるでしょう。
シミュレーションでは、リフォーム費用の総額として800万円を計上します。
これらの費用も含めて、持ち家に50年間住み続けたときの住居費は、以下の通りです。
頭金 | 1,000万円 |
住宅ローン返済額 | 約5,709万円 |
諸費用 | 約264万円 |
火災・地震保険料 | 200万円 |
税金 | 約800万円 |
住宅ローン控除 | -300万円 |
リフォーム費用 | 800万円 |
【合計】 | 約8,473万円 |
※住宅ローンは「フラット35」を利用。返済期間は35年、元利均等返済、全期間固定金利で1.73%(2023年7月現在)を適用。
参考:
持ち家に50年間住んだときの住居費は、約8,473万円という結果になりました。
賃貸の住居費が約9,826万円でしたから、持ち家の方が約1,353万円安く、冒頭にお伝えした「1,300万円の説」とほぼ一致することがわかります。
もちろん、エリアや物件などの選択によっては、賃貸のほうが安くなるケースもあります。
とはいえ、賃貸の場合はオーナーや管理会社のマージンが上乗せされるため、持ち家よりも高くなるのが一般的です。
賃貸に住み続けるメリット
住まいを選ぶ基準は、住居費だけではありません。
賃貸にもメリットがありますから、さまざまな観点から総合して選ぶことが大切です。
ここで、賃貸に住み続けるメリットを紹介します。
転居しやすい
賃貸は、新居にかかる初期費用が安く、引っ越ししやすいことがメリットの一つです。
初期費用の内訳は、敷金・礼金・仲介手数料がそれぞれ家賃の1ヵ月分。
これに、引っ越し代などを加えて数十万円もあれば、新居に移れます。
家族が増えたり転勤があったり収入が減ったりしても、新しい家に引っ越すことで課題を解決しやすく、そのときの状況に合わせた住居を選べる点では、持ち家よりも有利でしょう。
家賃以外のランニングコストを抑えられる
備え付けの家電や設備が故障して交換が必要な場合、持ち家だと自己負担ですが、賃貸ならオーナー(管理会社)の負担になります。
また、固定資産税や建物の保険料もオーナー負担で、家賃以外に支払うコストはほとんどありません。
近年は、大きな地震や豪雨などの災害が増えています。
災害で建物の一部が損壊することがあっても、入居者に負担が生じない点も賃貸のメリットでしょう。
新しい物件に住み続けることも可能
新築の持ち家でも、いずれ経年劣化により建物は古くなってしまいます。
これに対して賃貸の場合、新築を選んで移り住むことで、常に最新の仕様や設備の家に住み続けることが可能です。
ただし、新築や築浅の賃貸は家賃が高いため、トータルの住居費も高くなってしまいます。
賃貸に住み続けるデメリット
逆に、賃貸に住みづけるデメリットを見ていきましょう。
家賃の支払いが一生続く
その物件に住み続ける限り、家賃を支払い続けなければならないのが、賃貸のデメリットの一つです。
住宅ローンのように完済はありませんし、いくら家賃を払っても入居者の家になることはありません。
また、持ち家であれば家を担保に金融機関から融資を受けることも可能ですが、賃貸ではそれができません。
リフォームができない
物件の所有者はオーナーですから、備え付けの設備を交換したり壁紙を張り替えたりする時は、オーナーの許可が必要です。
無断で変更すると、退去時に原状回復費を請求される場合があります。
とはいえ、設備やインテリアなどに不満があれば、引っ越すことで解決できるでしょう。
高齢になったときに不安が残る
定年後、年金生活になっても家賃の支払いが続くため、老後の生活資金に困窮することが考えられます。
こうした心配はオーナーも把握しており、年金しか収入がない人は入居を断る物件もあります。
資産整理を目的に「老後の住まいは賃貸」と決めている方は、将来の資金計画をしっかり立てることが大切です。
持ち家に住み続けるメリット
続いて、持ち家を購入して住み続けるメリットをお伝えします。
自由度の高い暮らしを実現できる
持ち家を買う一番のメリットは、自由度の高い暮らしができる点でしょう。
戸建住宅であれば、「ペット不可」「楽器の演奏は禁止」といった規約はありませんし、設備の交換もリフォームをするのも自由です。
自分の資産ですから売却もできますし、立地によっては賃貸として貸し出して家賃収入を得ることも可能です。
住宅ローンには完済がある
賃貸の家賃は一生続きますが、持ち家の住宅ローンには完済があります。
定年前に完済すれば、老後の生活資金を多めに貯蓄できるなど、ゆとりあるセカンドライフを送れるでしょう。
ただし、リフォームなどの費用が必要になることもありますので、一定額の住居費を貯蓄しておくことが大切です。
子や孫に資産を残せる
住宅ローンを完済すれば、持ち家は完全に自分の所有物になります。
子や孫の世代まで長く住み続ける予定の方なら、長期優良住宅を選ぶと良いでしょう。
家のメンテナンス状況にもよりますが、子や孫の世代でも快適に過ごせる家を資産として残せます。もちろん、相続することも可能です。
持ち家に住み続けるデメリット
一方、持ち家には以下のようなデメリットもあります。
初期投資額が高い
住宅ローンを利用する場合でも、物件価格の1~2割程度の「頭金」を用意するのが一般的です。
住宅本体価格を全額借り入れできる「フルローン」という融資もありますが、諸費用や引っ越し代までは借入できない商品が多く、自己資金でまかなうのが一般的です。
なお、フルローンは金利が高いため返済額が増える心配もあります。
持ち家の購入時には、少なくても数百万円の自己資金を準備する必要があるのです。
管理の手間やコストがかかる
賃貸であれば、共有部の清掃やメンテナンスは管理会社が対応します。
専有部でも、備え付け設備の交換やその費用も、オーナー負担です。
こうした手間やコストは、持ち家だとすべて自分で対応しなければならない点も、デメリットでしょう。
このほか、固定資産税や火災保険の支払いといった費用も自己負担ですから、住み始めてからの資金計画をしっかり立てる必要があります。
転居が容易にできない
転勤などで引っ越すとき、持ち家だと簡単に引っ越せないこともデメリットの一つです。
売却して移り住むことも可能ですが、買手がすぐに見つかるとは限りませんし、売却額がローン残債より安ければ売却すらできないこともあります。
まとめ
賃貸にも持ち家にも、それぞれメリットもあればデメリットもあります。
家に対する考え方によっては、メリットがデメリットに感じることもあるでしょうし、逆にデメリットがメリットになることもあるでしょう。
どちらを選ぶかで迷ったら、「将来どんな暮らしを実現したいか」というビジョンを家族で話し合って明確にし、メリットの多い住居形態を選ぶと良いでしょう。